◆ 過去への時間旅行-内観法
過去は記憶の中にあります。記憶の中の過去には、幸い自由にアクセスすることができます。その過去を、視点を変えるなどしてあらたに経験し直すことはできます。
あらためて過去を経験し直すことで、現在に悪影響を及ぼしている過去から解放されることがあります。その方法の1つが内観法です。
過去から自由になる内観法とは
内観法は、吉本伊信が「身調べ」という精神修養法をもとに考案した、自己の内面を観察する方法です。(中略)「身調べ」はもともと浄土真宗の一派に伝わる精神修養法でしたが、吉本伊信はその方法から宗教色を排除して、また広く誰にでもできるように簡便化を図りました。 そして、1968年には、現在のような内観三項目(「してもらったこと」 「して返したこと」 「迷惑をかけたこと」)が確立されました。(日本内観学会(https://jpnaikan.jp/)より)
内観法は、身近な人(母、父、兄弟姉妹、師、先輩、上司、配偶者など)それぞれ1人ずつに対して、その人に「してもらったこと」、「して返したこと」、「迷惑をかけたこと」を年代別に思い出し、再確認、再体験するというものです。年代とは、たとえば小学校低学年、小学校高学年、中学校、高校、大学、会社員…現在と3~5年くらいで区切った年代です。
ポイントは、ていねいにありのままを具体的に思い出すことと、相手側から見るなど視点を変えてみることです。
内観法は、非行、不登校、自殺、親子の不仲、夫婦の不仲、うつ、職場の悩みや問題、各種(アルコール、薬物、ギャンブル)依存症や摂食障害などに効果が認められている心理療 法でもあります。また自己啓発のため、進んで行なう人もいます。親子関係や夫婦関係などの場合には、親子、夫婦がそれぞれ内観すると効果的なようです。
内観することで、内観者本人が、自然と気づき、癒やされ、自身で立ち直っていくので、効果が長続きすることが多いようです。
ていねいに内観をしていくと、たとえば自分に対して無関心だと思い込んでいた母親が、遠足の日、朝早く起きて朝食や弁当の用意をしてくれたことを昨日のことのように思い出す ようになります。台所からトントンとまな板をたたく音が聞こえ、味噌汁の湯気や香り、お弁当の彩り、会話、表情などの全てがよみがえり、母親の愛情をあらためて再体験して、感謝することはよくあります。
「してもらったこと」があまりに多いのに対して、「して返したこと」があまりに少なく、「迷惑をかけたこと」のあまりの多さを再認識することが多いものです。ネガティブにとらえて記憶の底に沈んでいた過去が、感謝すべき過去になります。ネガティブな過去が取り除かれると、本来の生命力を取り戻すことができます。
内観法の事例
書籍「内観ワーク」に、がんの例や過食症の例が紹介されています。
30代のある女性は、がんになり放射線治療後に、これからどう生きていけばいいのかのヒントになればと集中内観を受けました。内観で、両親に愛されて育ち、がんになりながらも 周囲の人々の支えで生かされている命の尊さを実感しました。不幸だと思い込み、閉じこもっていた心の世界を開き、生きる喜びを感じたようです。内観終了後には、生き生きと明る い表情になり、その2、3年後には、がんもほぼ完治状態になり、結婚もすることになったということです。
20代のある女性は、過食症で、食べても食べても満足することがなく、吐いてはまた食べるということを繰り返していました。不平不満が多く、少しのことでも被害者意識を持ち、人から愛されたという実感がありませんでした。内観の当初は、母親に「してもらったこと」をなかなか思い出せませんでしたが、ていねいに調べ、少しずついろいろな出来事を思い出していきました。何度も思い出していくうちに鮮やかに記憶がよみがえり、間違いなく愛されていたということが、実感できるようになりました。1週間の集中内観を終えて、自宅に戻ると普通の食事の量で満足することができ、自然と過食症が治っていたということです。
(三木喜彦・三木潤子著「内観ワーク」二見書房より(一部改変))
内観法を行なうには
内観には、集中内観と日常内観とがあります。
集中内観は、研修所で1週間、食事や睡眠、お風呂以外は内観をする方法です。1~2時間ごとにガイド役に内観の内容を報告しながら行ないます。
日常内観とは、日常生活の中で継続していく内観のことです。日常内観の1つの方法として記録内観が「内観ワーク」に紹介されています。興味のある方は、記録内観を実際に行な ってみてはいかがでしょうか。
こころのタイムマシン
内観法の結果は、人それぞれです。恨みつらみが劇的に感謝に変わり、歓喜の涙を流す人もいれば、表面的には何も変わっていないようにみえていても内なる自信を持てるように なる人もいます。また、まったく何も変わらない人もいれば、続かない人もいます。内観法は、こころのタイムマシンです。どこに戻って何を現在に持ち帰るかは、本人次第なのです。もとより他人と比べる必要はありません。
あらためて言うまでもありませんが、症状や病状によっては、自己判断せず、専門家のアドバイスを受けてください。
※ 注意
本ブログの情報は、適切な診断や治療を受ける機会を奪うことを意図していません。また適切な医学治療そのものに取って代わるものでもありません。
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